山口地方裁判所 昭和25年(ヨ)39号 決定
申請人 松本正 外一名
被申請人 東洋紡績株式会社
一、主 文
本件申請を却下する。
訴訟費用は申請人両名の負担とする。
二、理 由
申立代理人は被申請人が昭和二十五年八月十六日附を以て申請人等に対してなした解雇の意思表示はその効力を停止する、被申請人は申請人等に対し右解雇前と同様の従業員としての待遇(賃金その他諸給与の支給、雇傭契約の本旨に従う職務の遂行等)をしなければならないとの裁判を求め、申請の理由として、申請人松本正は昭和二十三年四月二十日、申請人中内禎三は同年三月十五日いづれも被申請会社に雇はれ前者は同年四月二十六日、後者は同年六月二十六日いづれも東洋紡績労働組合に加入した者であるが申請人両名は共に日本共産党員であつて同党東洋紡細胞に属しており其の資格において昭和二十四、五年数囘に亙り被申請会社岩国人繊工場周辺においてビラを配布した等のことがあつたところ該事実に関し申請人等の属する東洋紡労働組合第十囘拡大闘争委員会は申請人両名の右行動を組合規約第八十一条に違反するものとして同規約第八十二条によつて除名し組合長杉浦敬より昭和二十五年八月九日申請人等にこの旨通告し被申請会社岩国人繊工場長山本利雄は同月十六日申請人両名に対し被申請会社と右申請外組合との間の労働協約第二条に基き解雇する旨通告した(尤も申請人両名は即時右の解雇通告書の受領を拒み之を返上した)しかしながら右組合規約によれば規約第八十二条に基く決定に不服の場合には同規約八十三条により上級機関(この場合は組合大会)に対し上申することができることとなつており申請人両名は同月十五日組合大会宛右決定に不服の旨上申書を提出したから従つて右第十囘拡大闘争委員会の除名決定は未だ確定していないものであり、他方前記協約第二条は組合員の除名が確定した場合に始めて会社が原則として解雇をなし得る旨定めているのであつて本件の様に除名通告を受けた者がそれを不服として上級機関に不服の上申をしている場合には除名決定は未だ確定せず従つて其効力を為していないのであるから被申請会社としても右第二条に基き解雇を為し得る段階に達していないのである、而して申請人等の右不服の上申を審議決定すべき組合大会は未だ開かれていない、然るに被申請会社は組合長より前記の除名通告を受けるや奇貨措くべからずとして直ちに前記の様に申請人両名に対し前記協約第二条に基き解雇する旨通告した、よつて申請人等は被申請会社を相手取り近く解雇無効確認の訴を提起するものであるが本案判決の確定を俟つときは申請人等は其の間被申請会社の従業員として勤務に服することができずこれに対する賃金等反対給付も得られず従つて勤労所得を唯一の生活資源とする申請人等の生活は甚だしく脅かされるので民事訴訟法第七百六十条により本申請に及ぶと主張するのであるが申請人代理人提出の全疏明方法を以てしても前記組合規約第八十三条により上級機関に上申した場合には拡大闘争委員会の除名決定が確定せず、該決定が確定した場合でなければ被申請会社が解雇できないとの申請人主張を肯認するに足らないから申請人の主張はこの点に於て理由ないものとせざるを得ない。
よつて本件申立を却下し訴訟費用は民事訴訟法第八十九条により申請人をして負担せしむべきものとして主文の通り決定する。
(裁判官 土田吾郎 黒川四海 住吉君彦)